[自転車]能登の最先端をめざして(2) 富来から輪島、あるいは「まれ」のオープニング?


(1)から続く

国道249号は、富来を出てからしばらく山の中を進みます。アップダウンを抜けて再び海に出ると、そこは輪島市門前町です。「門前」という地名が表すとおり、鎌倉時代創建の歴史を持つ総持寺の門前として栄えた町でした。かつて大本山だった総持寺は1898年に大火で伽藍の大部分を消失、大本山機能は1911年に横浜市鶴見区に移転してしまいましたが、今も総持寺祖院として残っており、国道の行き先表示にも「総持寺」として出てきます。この門前は地元の人と話していると「門前の」とか「門前から」とよく言及されるキースポットで、バスの行き先にもなっています。

さて、ようやく海岸線に出ましたが、今度は向かい風にやられ気味です。たまたま面白い岩が見えたのでちょっと休憩。写真を撮ったのが上の写真ですが、後でトトロ岩と名付けられてることを知りました。この先に妙に立派な集落が現れます。このあたりは江戸時代から廻船業が始まり、総持寺の御用も務めた廻船問屋が北前船を数十艘を持って活躍したそうです。看板によると天領だったと書かれています。今でこそ鉄道さえ廃止にされる過疎の地ですが、当時は幕府が直轄するほど交通(物流)の要衝だったということですよね。

海岸線を走るのはほんの少し。今度は総持寺に向かって少し登ります。その総持寺の近くにファミマを見つけました。お昼から20km走ったので休憩。今回、3日間走って思ったのは、能登ではコンビニと言えばファミマだということです。セブンはほとんど(全く)見ませんでした。石川県は元々サークルKの出店数が多かった県で、それが統合でファミマになり、今はファミマ天国になっているのですね。リンゴ酢を飲みながら川の向かいをぼーっと見ていると、中学校が見えました。随分高いところにあります。この辺の子供たちは、毎日あの坂を上り下りしているのでしょうか。強くなりそうです。

国道249号で見慣れない信号機を見ました。これ、豪雪地帯用に開発されたフラットタイプのLED信号機です。LEDは消費電力が少なく省エネという点では良いものの、同時に発熱量も小さいために、着雪で信号機が見えなくなることがあるそうです。結局面積(横幅)を小さくするのが一番ということで、薄型タイプが広まっているのだとか。おもちゃみたいです。


総持寺を抜けたところで県道38号へ逸れます。山を越えて(さらっと書いてますが、この山越えは結構辛かった)、少し下ったところにあるのが男女滝(なめたき)。この滝、某新聞に「夏には滑り台にして遊ぶ人も」って書いてあったんですが、本当ですか?


さらに下ると、海が見える水田に出ました。このあたりは狭い階段状の棚田が多いのですが、ここは一枚が広く比較的平板です。


海に出る直前に上大沢(かみおおざわ)という集落があるのですが、集落全体が間垣で完全に覆われて要塞のようです。この日も風はあったものの危険を感じるようなものではなく、むしろ気持ちのよいくらいの風でしたが、ここまでするからには特に冬は相当の風が吹くのだろうなと思います。


先ほどの海が見える田んぼはこの集落のすぐ上に、そして集落の先には入江があります。このあたりは海沿いの狭い平地に集落をつくり、人々は半農半漁の生活をして暮らしてきたそうです。特に上大沢は1960年まで徒歩でしかたどり着けない秘境で、そのせいか古い風習が今も生きており、この過疎の時代に明治から戸数が一貫して横ばいの奇跡の村と言われているのだとか。最初間垣に囲まれた村に「要塞」の印象を持ったのはあながち間違いではないのかも。


能登半島を走っていてずっと思ってたのですが、あえて観光用に作られたものではなく、昔からの生活の知恵や地域の特性として工夫され、そして今も使われているこうしたものが、美しい景観を作り出しているところが多くて良いです。自転車は高低差に敏感ということは何度も書いていますが、高低差だけでなく風や気温といった気候、山や海といった自然の地形に左右されやすい乗り物でもあります。何故ここに集落があるのかとか、何故間垣が作られているのかとか、自転車で走ってるからこそ見えるものもあるので、自然に従って作られた景観は面白く感じます。

県道38号は海沿いを走ります。半島の海沿いの道は絶対に平坦ではないというのは、自転車乗りなら誰でも知っているでしょう。ここも例外ではありません。いきなりの急坂にやられます。


登ったと思ったら、突き出た岬を迂回するためにまた下りです。


この岬を越えると次の集落大沢集落に出ます。ここはNHKの朝ドラ「まれ」のロケ地のひとつ。朝ドラフリークの旦那が「ここ見たことある」と言ってましたが、後で確認したところ確かにここで撮影されたそうで、放送時は臨時バスが出るほどの人気だったとか。写真は集落を過ぎて再び登った高台から。


上り下りを繰り返すこと数度、三ツ岩岬という岬を超えたところで振り返ると、その岬の上の平地に、なんと水田が作られています。ちょうど田植えをしているのでしょうか。おじさんが作業をしていました。今も使われているのです。


これもまた後で知ったのですが、この水田、「まれ」のオープニングや本編に出てくるそうですね。こんなところ見つけるのは、さすがNHK。

さらに上り下りを繰り返します。崖の下に見える海はどこまでも青く、吸い込まれそう。


ゾウゾウ鼻の展望台を過ぎると、あと少しです。この西保海岸と言われる海沿いの集落をつなぐ県道38号は、ひたすらアップダウンの続く非常に硬派な道路ですが、海はどこまでも美しく、そして眺めも素晴らしい道路でした。今は新緑とヤマフジがとても綺麗でしたが、地元のおばちゃんによると、秋の紅葉も素晴らしいそうです。


輪島到着。宿はルートインです。ビジネスホテルですが、自家源泉を持ってる面白いホテルです。朝市が近く、町の中央にあって便利なのと、何人か自転車の人が泊まってるブログがあったので、自転車に慣れてるだろうと思ったのもありました。別に自転車ウェルカムというわけではないのですが、玄関の風除室のところに自転車を置かせてもらえました。初日は我々だけでしたが、翌日は外に旅バイクがあったので、やっぱりサイクリストはそれなりに来てるのかも。

夕飯はつけていなかったので、町の中で適当に居酒屋を見つけて定食をいただきました。そこのおばちゃんに、いろいろ観光スポットを教えて貰ったり、そこでやはり「門前」という地名が出たり。地元の豆腐をいただいたのですが、これが美味しかった。昔は辛子を練り込んだものだったそうですが、辛子は好き嫌いあるので、最近は別に付けるのだとか。旦那はカワハギのぬか漬けを炙ったものがお気に入りで、おばちゃんの「朝市で売ってるかも」という言葉を頼りに最終日の朝探したのですが結局見つけられず。ふぐの卵巣のぬか漬け(ふぐの子ぬか漬け)はあったんですけどね。石川のアンテナショップとかに入ってるかしら。本日のおすすめ看板に「カレーの一夜干し」とあって、「1日経ったカレー?でも一夜干し?」と疑問に思ってたら、「カレイ」だったという、面白いおばちゃんの居る恐らく地元民用のお店でした。おばちゃんの訛に、旦那の出身地方の訛と類似するような気配がありました。「尾張の人間が(つまり利家が)入ってきてるからだろ」という旦那の弁ですが、どうなんでしょうね。あのゆったりした言葉は、良いですね。

いよいよ明日は、能登の最先端を目指します。

ここまでの1日目のルート


(3)へ続く

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