大学の街、ルーベン


出張でベルギーのルーベンに行ってきました。コロナのせいで超久しぶりの海外出張です。KU Leuvenという大学を会場とする図書館システムベンダーの会議で、世界中の利用者が集まるものです。9:00-17:00頃までほぼ1日中会議、そして夜はそこで知り合った人とかと飲みに行ってしまい、会議日の4日間は時差ボケもあって、帰ったらそのまま寝てしまうという日々が続いており、そんなに観光的なことはしてないのですが、逆に時差ボケで朝やたらと散歩したり、あと会議のなかった土日2日ほど観光したので、その話を。

ルーベンは、ブリュッセルから30kmくらいのところにある小さな大学街です。KU Leuven(Katholieke Universiteit Leuven)という、現存する最古のキリスト教大学(創立1425年)を中心に、聖ペトロ教会(写真右)と市庁舎(写真左奥)があり、広場には毎週金曜にマーケットが開かれるという散歩してて楽しいところです。

金曜のマーケットはフリマのようなものではなく、大型の移動店が出るような本格的なもの。

最初の写真中央にある像はFons Sapientiae(知識の泉)という名前で、大学創立550年を記念して1975年に建てられたもの。片手に本を、そして頭の上から「知」を表す水をがっつり注ぐ像なのですが、酔っ払いがビールを頭からかぶっているようにしか見えないところがなんとも愛嬌があり、Fonskeという愛称で地元の人にも親しまれているそうです。一説によるとブリュッセルの小便小僧の対抗馬とも言われているそうですが、いやいや、全然こっちの勝ちでしょ。

帰国日にブリュッセルに行ったときに一応見に行った小便小僧、思っていた以上にがっかりでしたよ。


小便小僧、グランプラスという大きな広場(ここにも立派な市庁舎が)からまっすぐ入っていったところにあるのですが、最初気づかずに通り過ぎました(行ったことある人は意味わかりますよね?)。というか、観光客が写真を撮ってなかったら気づかないこと間違いなし。「世界三大がっかり」は日本のがっかりとはスケールが違いました。

ちょうど、到着日翌日の9/10(日)が"Open Monumentendag"というフランドル地方の文化の日みたいな記念日で、多くの遺跡・歴史的建造物が無料公開される日でした。本来5ユーロかかるルーベン随一の高層建築物、KU Leuven大学図書館の鐘楼に登りましたよ。下の写真の中央がその塔。


エレベーターなんてありませんから、こんな螺旋階段を登ります。会議のイベントで大学図書館ツアーに行ったときに聞いたところ100段はあるって話でした。



ルーベンは第1次、第2次世界大戦の両方で大きな被害を受けました。どちらもドイツ軍によるもので、特に第1次世界大戦のときは、ルーベンの街全体が焼き討ちに遭い、この大学図書館も建物自体が甚大な被害を受け、ほとんどの蔵書が焼けてしまったそうです。美しい閲覧室の焼ける前・焼けた後の写真が残っているのですが、その両方を並べたポストカードが作られ、世界中から知への脅威として同情を得ました。


実はその一人が当時皇太子だった昭和天皇です。彼が視察したときの写真が残っていて、ルーベンに来てから何度も見ました(というか私が日本人だから見せてくれたのか?)。昭和天皇はこの惨事に心を傷められ、そしてルーベン大に蔵書の足しにしてくれと、幅広い分野のかなりの量の資料を寄贈しました。しかしその資料は日本語でした。今は日本を研究する方もいらっしゃるし、日本語がわかる司書の方もいらっしゃるのですが、当時はそれをどうすることもできず、死蔵されていたそうです。その後何度かその蔵書が日本人の研究者によって「発見」され、目録も作られたりしました。しかしベルギーでは1960年代に言語戦争が起きます。結果としてKU Leuvenはオランダ語(フラマン語)を中心とする大学となり、1968年に40kmほど南のLouvain la Neuve(新ルーベン)にUC Louvainと呼ばれるフランス語を中心とする大学が作られ、そちらに蔵書を分割することになりました。その時にUCLouvainのほうにその日本語資料も移管されたそうです。

世界中の義捐金を得て建て直された現存の建物は、再び第2次世界大戦時にも爆撃で大きな被害を受けています。現存の建物は多くはアメリカの支援によるもので、建築もアメリカ人によるもの。そのため、当時48州だったアメリカを象徴して、時計の数字に当たる位置が星になっています。4面あるので全部で48。こういうところにアメリカ色を出してくるところがさすが。



ちなみにLeuvenはフランドル地方、つまりオランダ語圏で、フランス語で言うときはLouvain(ルーヴァン)と言われます。UC Louvainがある新ルーベンはフランス語圏のワロン地方。公共施設はすべて仏・蘭だけでなく、英語/ドイツ語の4言語併記を強いられ、とにかく説明書きが長い。言語は違ってもすべてアルファベットなので、その中から英語の説明を探すのに苦労しました。王立図書館でミュージアムを案内してもらったときも、4言語対応が必要で、展示替えのたびに説明を入れ替えるのが大変だから、入口でもらえる腕輪をかざすと画面に希望する言語で表示されるようなシステムを入れてると言ってました。必要こそ発明の母。

ルーベンの街はずれにベギンホフという世界遺産があります。中世では未婚女性が生きるには修道院に入るくらいしか道がなかったところ、ベギンホフはそうした未婚女性が集い共同生活をするための場所だったそうです。建物がよく保存され、今も大学のゲストハウスとして使われています。






お店に行くと水やコーヒーよりビールが安いので、ビールばっかり飲んでたんですが、ルーベンにはStella Astoisという大手ブルワリーが駅のそばにあり、そこのビールがどのお店でも飲めます。なんとなくベルギービールというと度数の高い、そしていろんなフレーバーのあるビールというイメージなのですが、このステラは普通に飲みやすいビールでした(悪く言うと特徴ない、日本のスーパードライみたいな)。




ヒューガルテン ホワイト(でもベルギー人のKU Leuvenの先生が頼んだときは全然違う発音だった)、シメイ、ヴィクトリアなどいろいろ飲みましたが、たしかにお店で頼む場合は日本と比較して安いものの、最近ベルギービールは大量に日本に入ってきているので、特にビン・カンで買う場合はそこまで値段が違うかという気も。そして2日目にオーストラリア人がいろいろベルギービールが飲める場所があると言うので、詳しく聞かせてもらおうと思ったら「デリリウムカフェ」(ブリュッセル)と言われました...いや、それ東京にもあるし。ルーベンのマイクロブルワリーがやってるDomusというお店に行きましたが、そこのCom Domusはちょっと変わった感じでよかったです。季節限定のビールもあって、それもよかったです(写真2枚め)。お料理も美味しかった。





さらに、あちこちでベルギーワッフル試したんですが、マネケンを超えるものに会えませんでした。そりゃあ銀座のマネケン、外国人が長蛇の列を作るわけだ...ワッフルのおすすめも聞いてみたのですが「お気に入りの場所はCOVIDで無くなってしまった」と悲しい答えが。全体として感じたのは、ルーベンは内陸なので、海産物よりもお肉のほうが美味しいということ。街をあるいてるとやたらと寿司屋(と言ってもカリフォルニアロール的な)を見ます。向こうで出会った中国人に「ほら、日本食あるよ」って言われたんですが、「いーや、絶対に食べない、そもそも中国の人は外国で中国料理食べる?」って聞いたら、やっぱり否定しました。「長い間母国を離れてて、どうしても食べたくなったときだけ」。ほら、同じじゃん。アジア人(特に東アジア人?)は全体的に食にうるさくて面倒な観光客かもしれないです。何が美味しかったかなと思ったのですが、ドイツ人が言っていた「パン」というのは言い得て妙。ホテルの朝のバイキングで出るパンも、お昼に大学食堂が提供するパンも、さらにどこで食べたパンも美味しかったです。あとさすがヨーロッパというか、コーヒーはどこで飲んでも美味しかった。ちなみにコーヒーも紅茶も基本ホットです。アイスは邪道なのかあまり見ません。ちなみにヨーロッパの9月だったら涼しいだろうと思っていたら、昼間は30度近い気温(欧州人たちは口を揃えて今年は異常と言っていた)、しかも大学の教室には冷房設備がなくて、なかなかの試練でした。

ルーベンには50歳を祝う習慣があるのだそうです。それに向けて40歳のときに同年齢会が組織され、制服、旗、ワッペンなどを決めていろいろな活動をします。9月10日はパレードが開催されることもあり、その人たちが大量に集まっていて、一体何が起こっているのかと思いました。最初は同窓会とかかなと思ったのですが、それにしては集団の数が多すぎ、ひとつの集団の人数が少なすぎる気がします。たまたま地元のおじさんが道案内してくれたので、ついでにその同じ服の集団について聞いたら「自分には意味ないと思うけど」という前置きとともに「同じ年齢の人が集まる習慣があるんだ」とのこと。後で調べたらUNESCOの無形文化遺産に指定されてました。女性も受け入れられているらしいのですが、でも基本メンバーの妻とかで、実際に集まっている人の顔ぶれを見ている限りでは白人男性ばっかり。そういう意味では特に外部から移住してきた人とかにとっては逆に疎外感を感じるのかもしれません。ちなみにこのお祭りに合わせて、フォンスケもお色直し。まるで京大の折田先生像ですね。


ベルギーは自転車の国。私が泊まっていたのは、駅前のホテルだったのですが、駅を渡る(そしてそこから駅ホームへのエレベーターも設置されている)歩道橋にも自転車通行帯があり、さらにそこから下に降りるところは「降りて押して歩け」なんて残念なことは言いません。見事なループ橋を作ってみんなそこを快走していきます。電車にもそのまま乗れて、自転車用の乗り場所みたいなところも。ルーベンは車も少なくて(信号も全く見なかった)、自転車のほうが明らかに多かったです。



ルーベン最大の食堂街(飲み屋街)では、多くのお店が学割値段を設定。大学は9/20あたりまで夏休みだそうで、これでも「混雑」にはほど遠いとのこと。夜の街もきれいでした。




他にもいろいろ書きたいことがありますが、長くなっちゃったのでこの辺で。行きも帰りもANAの直行便だったのですが、ロシア領空を飛べない現在、行きのルートはこんな感じ(メルカトル図法だとわかりにくいけど、要するに地球を北極方向へ縦に半周した感じ)。


そして帰りのルートはこんな感じ。(ウクライナも避けてる)


というわけで、文字通り地球を一周しました。航路図はいずれもFlightrader24より

1週間(7泊)ルーベンにいたので、この街のペースに慣れてしまい、ブリュッセルの王立図書館を訪れたときは都市の忙しなさに人酔いしてしまいました(東京に住んでるのに)。私はルーベンが良かったな。サイズも丁度よいし、何より人が親切で癒やされました。

コメント