[exhibition] 「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」展


子供の頃、教科書で誰もが見たであろう鳥獣戯画。京都の高山寺所蔵の資料ですが、実際は東京と京都の国立博物館に寄託されています。朝日新聞文化財団の助成で4年をかけて大修復、7年ぶり(前回は東博ではなくサントリー美術館で公開)に東京・京都にある鳥獣戯画4巻が一度に特別展で公開される事になりました。前売り券を買って公開を待っていましたが、いざ公開されたら大人気(詳しくはTwitterの混雑状況)。連休中は諦めて平日に行ける日を考えて、木曜日に行く事にしました。

午後から予定があり、時間が読めない行列に並ぶことができないと思っていましたから、開館時間に入れるように早めに行きました。なんとか開館時間に入れる最初の組に入ることができ、中に入ると、まず行列する鳥獣戯画の甲巻から見に行きました。展示場所は第二会場の(つまり本展示会場の)最後です。全ての展示をすっとばして最後の展示を見るのは気が引けますが、そんなことは言っていられない、この行動は正しかったとあとで思いました。そのお目当ての鳥獣戯画ですが、第二会場の中でもやたらと長い通路を通って本当に最後です。朝早くから大勢が並んだのはその甲巻をさっさと見るためなので、前にいた人たちも皆そこにいました。鳥獣戯画の最も有名な巻です。水遊びをするウサギや猿、弓の勝負をするウサギとカエル、どれもユーモラスでとても可愛らしい。最も有名なカエルとウサギが相撲を取る図の部分は後期展示(5/19〜)です。その部分は写真で展示されています。

再び第二会場の頭に戻って(乙以下を見るには、会場の入り口から入り直す必要があります)、今度は乙丙丁巻のほうへ。こちらはそれ程混んではおらず、一日中特に待ち時間なく見られたようでした。確かに筆跡が全然違うのです。甲巻はとても細かいのですが、特に丁巻は大胆という印象。私が子供の頃は「鳥羽僧正筆」と言われてたと思うのですが、その説は現在は否定され寺院の仏教絵師、もしくは宮廷絵所の絵師という2説が有力だそう。知らなかった。

さて、この謎の絵は一体誰が描いたのか。鳥獣戯画を所蔵する高山寺に伝わるお宝や同時代の絵にそのヒントが隠されているようです。改めて展示の頭から見ていくために第一会場に入ります。誰も彼もが鳥獣戯画を目当てに来る(しかも長時間の行列で足止めされる)ので、開館直後の第一会場はほとんど人はおらず、本当にゆっくり見られました。東博の平成館で行われる特別展は、ここまでの人気ではなくても普段も混雑しているので、逆にここまで人のいない展示室で展示を見られることに興奮しちゃいました。

最初に展示されているのが白描図像(密教図像)。あとの第二会場でも別の展示物が出ていますが、この白描図像の描かれ方に鳥獣戯画との類似性が見られるということから、仏教絵師説が言われているそうです。面白かったのは「阿弥陀鉤召図(あみだこうしょうず)」。「あらゆる衆生を引き寄せ済度するという阿弥陀如来の本願に基づき行われる密教修法「阿弥陀鉤召法」の意義を戯画的に描いたもの」(文化遺産オンライン)だそうですが、召されるのを嫌がる僧を阿弥陀如来が首に紐をかけて引っ張り、それを観音菩薩が「ほれ行け行け」とばかりに後ろから押し、勢至菩薩がその様子を指差して笑うという、なんとも戯画的な絵です。私は『聖おにいさん』を思い出しましたが、そう思ったのは私だけじゃないはず。この絵は高山寺に伝わっていた可能性も高く、鳥獣戯画成立との関係も指摘されています。確かに今回展示されている丙巻の首引きをしている様子に通じるものがありますし、勢至菩薩の笑う様は、ウサギとカエルの相撲を見ながら笑うギャラリーにも似てる気がします。

また今回の展示、すごく面白かったのが展示説明の一番上に書かれた一行説明。遊んでるとしか思えない笑える説明があります。例えば2部屋目に展示された剥落の激しい明恵上人像の説明に「くもりなき眼で明恵を探してください」とか、第二会場入ってすぐの善妙神立像には「龍となってあなたを護りたい」とか書かれてます。気づいてからはその一言説明を熱心に読んでしまいました。展示を見る方は是非パネル上部の一言説明にも目を向けてあげてください。あ、善妙と華厳宗の祖・義湘の物語が描かれている「華厳宗祖師絵伝 義湘絵」は5/17(日)までの展示です。後半は「華厳宗祖師絵伝 元暁絵」になるそうです。

他にも高山寺で昔行われていた栂尾開帳という行事に使われた動物彫刻、明恵上人が敬愛する善財童子、可愛らしい動物の絵が描かれた上人像、その上人像の元になっていると思われる羅漢像など、鳥獣戯画成立と関係がありそうな(いや無さそうな?)様々な絵画、彫刻が展示されています。どれもこれも面白い。明恵上人は戯けとか笑いのわかる僧侶だったのかもしれません。第二会場ではそのまとめとして、仏教絵師説、宮廷絵所の絵師説が説明されています。最後の鳥獣戯画全4巻の展示はもちろん必見ですが、乙丙丁巻手前にある断簡展示も面白いです。多くは甲巻からはぐれたものなのですが、ウサギと猿が競馬ならぬ競鹿をしており、可哀想に落鹿?した猿を仲間が「大丈夫か?」と心配している様子、可愛らしいネズミの後ろ姿など、見どころ満載です。

3度目の第二会場前半で、なるほど鳥獣戯画の謎は面白いなと思ったところで終了。後半の鳥獣戯画はすでに見たので通り過ぎて外に出ました。すると甲巻を見るための行列が2階中央の広場にまで到達していました。平成館で特別展を行う場合は中央の広場に展示グッズの販売所が開かれるのですが、今回はそこ全体がディズニーランドのような行列待機所になっていました。鳥獣戯画展は昨年すでに京都国立博物館で開かれているので、その際の大行列を考えてこの配置にしたのでしょう。目玉の鳥獣戯画甲巻が第二会場入ってすぐではなく、一番最後に展示されているのも、行列を外につなげるための苦肉の策だったのかもしれません。ではグッズ売り場はというと、平成館と本館を結ぶ通路は現在改修中で通ることができません。その通路手前の広くなったところにグッズ売り場が展開されていました。

なお、本物は混雑でじっくり見られなかったという方は、本館2階の特別1室で明治時代の文化財調査(壬申調査)の際に模写された鳥獣戯画を見ることができます。特に甲巻は全場面を見ることができますので、本物は雰囲気を味わって、中身をじっくり見るのは本館でというのもありだと思います。他にも焼失してしまった高山寺仁王門の写真(しかもステレオ写真!)など貴重な資料もみられます。

さて、鳥獣戯画の混雑具合ですが思っていた以上のものでした。ちなみに11時過ぎに平成館を出たときの外の行列はこんな感じ。池には鳥獣戯画の中に出てくる動物たちが配置されてます(中央のうさぎ?の足はスケキヨか?)。


博物館入り口外の看板によると、平成館に入るまでの待ち時間が80分、甲巻を見るための待ち時間が100分となっていました(3時間か・・・)。私が写真を撮っている間にも、この看板を見て諦める人もいましたよ。相当の気合が必要です。並ぶ方は、水と日傘や帽子などお忘れなく。列途中に給水所が出てるような状況です。


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