東京ステーションホテル探検

旅好きにはコロナ感染拡大によってどこにも行けないのが一番つらいです。国境が普通に開くのを首を長くして待つ毎日。せめて国内でどっか行きたい...と思っても、「GoToトラベル35%OFF!実質○○円」みたいなのばっかり目について、都民は値引きされない35%分が上乗せされてる感のある料金に乗る気にもなれず。そんな中、GoTo除外で厳しい都内のホテルが、都民限定で次々と割引プランを打ち出すようになりました。オリンピックの延期と世界的な鎖国によるインバウンド需要消失の上に、国による追い打ちをかけられて、本当に厳しいのでしょう。そのひとつが、なんと日本屈指のクラシックホテルであるこちら。


東京駅徒歩0分、というか、東京駅そのものの「東京ステーションホテル」。

JRや飛行機を付けて往復交通費分で宿代もついてくるみたいなパッケージにできない近隣住民には、超のつく高級ホテルでほとんど安売りされないんです。子供の頃にあの駅舎はホテルになっていると聞いて以来、一度は泊まってみたかったホテルでしたが、丸の内側の眺望が期待できるまともな部屋は1泊1室7万円〜。いくら建物が目的でも自宅から道なりに計測しても4km、自転車で20分もかからない激近ホテルに泊まるのにその金額は躊躇します。半額でも決して安くないのですが、 人数分の「アトリウム」での朝食(通常は4500円/人)が無料、さらに5000円分の金券(ステーションホテル以外にも都内のJR系ホテルで利用可能)までついて、丸の内側の中央に近いお部屋でこのお値段はもう多分二度とお目にかかれないだろう、と思って予約。でも普段なら行かないけど、一度は泊まってみたいと思っていた都民は多いらしく、私が予約した頃は選択肢がまだありましたが、その後8月分の予約はあっという間に埋まってました。

東京駅の建物のうち、赤レンガの部分のほとんどはホテルとして使用されています。正面から見える白い窓はすべてホテルの部屋。部屋側から見るとこんな感じ。


皇居の向こうに日が沈みますから、夕陽の時間は必見。


窓は二重になっていて、仕様的には両方とも開くように見えましたが、内側の窓自体の鍵(兼取っ手)が取られていて、開けられないようになっていました。建物自体が重要文化財だけに窓の外に落下防止措置が取れないこともあるのでしょう。その二重窓のせいなのか、外から撮影しても中はあまり見えないようです(たぶん。夜はわからない)。

部屋はそれほど広くはないのですが、天井の高さと窓の大きさで圧迫感は感じません。建物は古くても、2012年の復原時に全面リノベーションされてるホテル内部はお風呂もトイレも最新式で広く、古さを残すところと、現代人に合わせたところが見事に調和した素敵なお部屋でした。


ちなみにホテルWifiは一応鍵付きで、速度はこのくらい。ステイケーションなら十分ですが、ワーケーションだとちょっと力不足...かも?少なくともビデオをダウンロードするには不向きな速度でした。




広角レンズでも全景を入れるのが難しい、全長330m超の見た目通り横長の建物の中は、当然ながら非常に長ーい廊下があります。このどこまでも続く廊下はまるで列車の中のよう。フロントや、レストラン・バーは主に南口側にありますから、番号の若い北側の部屋はちょっと不便かも。そのためか、スイートルームなどは南側に集中しています。


東京駅は歴史が長く、そして首都東京の中央停車場として作られた経緯もあり、様々なエピソードがあります。その歴史にまつわる写真、絵、あるいは図面などがアートワークとしてこの長ーい廊下の壁に点々と飾られています。さながら東京駅博物館です。それを見ながら端から端へ。例えば、松本清張の『点と線』で出てくるあさかぜのダイヤがありました。『点と線』再読したくなってきますね。


松本清張が気に入ってよく泊まっていた部屋は旧209号室、現在の2033号室です。旧ホテルの部屋番は奇数の場合は駅側、偶数は皇居側だったそう。つまり旧209号室は駅側の部屋ですが、当時駅側の部屋からはホームが見えたそうなのです。残念ながら現在は東京駅側の部屋はトレイン(プラットホーム)ビューというわけではありません。別件で駅側の部屋に入ったことがあるのですが、ちょうど中央線の高架に阻まれて、ほとんどの部屋で眺望はありません。トレインビューが希望なら同じく東京駅直結のJR系列ホテル、ホテルメトロポリタン丸の内のほうが良いかと(同じく都民半額キャンペーン中、そして元の値段も安い)。

私の中のお気に入りは、所得倍増計画の鉄道路線ポスター。半世紀が経った現在これを見ると感慨深いものがあります。書かれていないものは、まず返還前だった沖縄。四国と本州を結ぶ線路や、直江津を通らなかった北陸新幹線。また現在では重要な拠点である大宮は(分岐はあるのに)駅名がないなど、当時は考えもしなかった事がある一方で、北海道に縦横無尽に描かれた線が物悲しい。


南北2箇所のドーム3階に、南口側は2箇所、北口側は1箇所アーカイブバルコニーという狭い部屋があり、そこからドームの天井を間近に見ることができます。ドームを取り巻くようにドーム内の眺望しかない部屋があるのですが(そして人気だそうなのですが)、宿泊者ならここからも見られるので、どうしてもドーム内に泊まりたいという人以外は別にそこを選ばなくてもという気も。


この窓からは下から見上げてるだけでは気づかなかった細かい意匠がよく見えます。設計者の辰野金吾は全体的に洋風の建物の中に、好きな日本風の意匠を散りばめたそうなのですが、例えば、方角に合わせて作られた干支レリーフには、兜の意匠が乗ってました 。その左右にあるアーチには椿の意匠があしらわれているのですが、このマーク、ステーションホテルにあるカフェバー「カメリア」の扉にも描かれているんです。ああ、だからカメリアなのかと。



カメリアの廊下の壁には、創建当時のこの意匠を使って作られたレリーフが飾られています。ここも誰でも入れますからぜひ。


アーチの上部には、秀吉の兜のモチーフ。


ちなみに南口の2階テラスは虎屋の直営店兼喫茶のTORAYA TOKYOが入っていて、宿泊者以外も入れます。また北口の2階テラスは、ステーションギャラリーの一部です。


部屋はちょうど丸の内中央口の上にあるお部屋でした。前述のとおり、東京駅側は中央線高架が邪魔をして眺望ゼロのため、廊下に関してもほぼ擦りガラスで駅側を見ることはできないのですが、部屋の前の廊下のここだけ改札を見下ろせる窓がありました。中央口、普段あまり使わないので、天井が吹き抜けになっているなんて気づいていませんでした。写真はまだシャッターが開く前の人気のない改札内部。


夕食は地下の焼き鳥屋「瀬尾」を予約していたのですが、この場所、丸の内南口から階段でアクセスできるんですね。


食べ終わって出たときに、上の写真の廊下の奥に「←東京駅丸の内南口」という案内が見えて、「え、これどこにつながってるの?」と思わず階段を上がってしまいました。出たのがここ。


これは気づいてなかった。間抜けなことに、この部分人が来ないので、よくこの両側の壁を使って輪行作業してたんですけどね....まあ知ってる人が使ってるという感じではありました。こんな時期でも瀬尾は満席でしたし、また人気も納得の美味しさでした。

さらに旦那の希望で、2階のバー・オークへ。オーセンティックな雰囲気バリバリながら、ドレスコードもなく、とっても居心地よかったです。壁にレンガが見えたので、「あれは本物なのか、それともデザインで貼り付けたものか」と聞いたら、以前は壁だったところを剥がしたらレンガが出てきたので、それを活かしたデザインにしたとのこと(つまり創建当初からある本物)。今のオークがある場所は、もともとトリプルベッドの客室だったのだとか。


レンガに空いた穴は石膏ボードを打ち付けていた跡、そして右側に長く伸びる縦のくぼみは、電話線か電線を通していたと教えてもらいました。ここは宿泊客以外も入れるので、ちょっと一杯にどうぞ。私がいただいたのは伝説のバーテンダーが作ってくれた「東京駅」というオリジナルカクテル。半分飲んだらライムを絞って入れるのですが、味が変わって面白かった。ジン(タンカレー)ベースで、さっぱりしてて夏にぴったりのカクテルです。


今回のプランの最後のハイライトは、朝食。中央屋根の下にある屋根裏部屋、アトリウムでいただきます。天井の形状が外から見る屋根そのもの。


両側に半個室的な部屋があって、そこもとても素敵。朝食のときは使われていなさそうでしたが、ディナーだと予約できるのかな。2人でしか入れなさそうだけど。


外から見ると、中央屋根の両側にある柱の上のところです。横の窓から屋根の様子がよく見えます。


中央のレンガは創建時そのものなのだそう。中央の鉄骨はピッタリ合うものをこの建物の中から探してきたのだとか。


朝食はブッフェ形式ではあるのですが、コロナ対策もあるのか、自分で取り分けるのではなく、すでに小鉢に分けられて、蓋がされたものが大量に並んでいます。和洋中、本当に色んな種類があって、迷い箸ならぬ迷い皿。まるでデパ地下がそのまま引っ越してきて、どうぞ全部食べていいですよ、と言われた気分。最高の幸せ。目の前で焼いてくれる一口ステーキ(朝から!)、サラダ、中華風のかにの茶碗蒸し、エビのマリネ...


卵はオムレツにしてくれたり、エッグベネディクトにしてくれたり。フレンチトーストに季節のフルーツを乗せて焼いたこんな一品も。


ご飯は頼んだら土鍋で出てきます。少し時間がかかるので、早めに頼むのが吉。これはマスト。というのは、和食がものすごく豊富で、ご飯のお供もたくさんあるのです。東京のソウルフード(?)佃煮は種類も豊富、納豆は保谷納豆の黒豆納豆が置いてあるなど、東京にこだわった食材が提供されていたり、いくらや山かけなんかもあります。


そしてフルーツやデザートも食べ放題。これは気分あがる。


ちなみにウェディングケーキのようなケーキにはサンプルと書かれていますが、ちゃんと切り分けたショートケーキがあります。フィリングは、季節のフルーツ桃でした。


コーヒー、紅茶などはお願いすると持ってきてくれ、おかわり自由。エスプレッソやカフェラテ、煎茶、ほうじ茶などもありました。貧乏性なので食べ過ぎました。コンシェルジュに8時前後が最も混雑しますと言われましたが、まあ入場制限するほどではありません。天井高いし、席間隔もゆったりしているので、三密が気になるなんてことは一切ありませんでした。

ホスピタリティも素晴らしいと思いました。上に書いたいろんなエピソード、疑問に思ったら近くにいるホテルの人を捕まえて聞いていたのですが(すごい迷惑な客)、誰に聞いても何でも出てくるんです。この壁は...とか、この部屋は...とか。このホテルは、日本最大のターミナル駅直結で東京からどこかへ行くのには非常に便利な立地です。一方で、東京を観光する事を考えたとき、ビジネス街ど真ん中の東京駅は、名所旧跡などの観光地、美術館・博物館・展示場、主要コンサートホールなど、どこからも微妙な距離で、それほど便利ではありません。その割に決して安くない。それでもあえて東京駅に泊まる酔狂な(特に日本人の)客は、大概この建物に興味があるわけで、いろいろ聞かれるのでしょう。

というわけで、ホテル内を南へ北へ何度も往復して、1万歩以上歩きました。駅が直接見られないのが本当に残念ですが、普段見られないものが見られたり、普段見ているものでも違う角度・方向から見られたりして、楽しい滞在でした。都民半額企画は、GoToトラベルの東京除外が解除されるまで。東京駅に興味のある都民の方はぜひ。

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